プロセス改善のなかでも、プロジェクトにおけるプロセス改善と、組織におけるプロセス改善は位置づけや意味が異なります。プロジェクトにおけるプロセス改善は、そのプロジェクトを成功に導くために必要ですが、効果に持続性があるのは、組織のプロセス改善です。組織が繁栄していくためには、組織のプロセス改善が必須です。
プロジェクトと組織の違い
プロジェクトと組織の違いから考えてみましょう。下図のように、プロジェクトは、一つの組織の中に複数存在します。
プロジェクトとは
プロジェクトとは「独自の成果物またはサービスを創出するための有期活動」[PMBOK]と定義されています。プロジェクトは、システムなどの成果物を、所定のQCDで作り上げることを目的として設立され、その成果物が完成すると解散します。つまり、始まりと終わりがある有期活動なのです。
組織とは
一方、組織とは恒久的な枠組みで、基本的には不変の存在です。組織を会社と読み替えていただくと、わかりやすいと思います。組織(会社)は恒久的に存在し、プロジェクトはその組織(会社)のなかに生まれては消える存在です。
プロジェクトのプロセス改善とは
プロジェクトは、独自の成果物を創出することが目的ですから、プロセス改善の視点は、プロジェクトの目的を達成することに集中します。短期間のプロジェクトなら、短期間で完了できるようにプロセスを最適化しますし、費用的に厳しいプロジェクトなら、費用管理を厳密に実施できるよう最適化していくはずです。そして、そのプロジェクトでのプロセス改善は、プロジェクトが終了すればそこで終わりになります。もちろん個々のプロジェクトメンバの経験としては残りますが、プロジェクト外の人が参考にできる形では残らないことが多いです。
組織のプロセス改善とは
一方、組織のプロセス改善は、組織内で実施するプロジェクトが、なるべく多く成功することを目指します。つまり、プロジェクトの成功率の向上に集中するのです。そのためには、組織で実施するプロジェクトの特性を分析して、共通して成功に導く点を見出し、どのプロジェクトでもそれを適用できるように仕組み化する必要があります。たとえば、組織の代表的な成功プロジェクトを分析して、他のプロジェクトでもその成功ノウハウを使えるように標準化したり、組織内のプロジェクトの重大バグを分析して、重大バグを防止する新しい技術を組織へ導入するのです。つまり、組織のプロセス改善は、組織を底上げして、新しいプロジェクトをゼロから始めないようにするのです。 組織の仕組みを利用することによって、 個々のプロジェクトメンバは実際に経験していなくても、過去の過ちを繰り返すことなく、より高度なレベルでプロジェクトを進めることができるようになるのです。
まとめ
このように、「プロジェクトのプロセス改善」と「組織のプロセス改善」は、成功を目指すという点で似ているように思うかもしれませんが、全く性格の異なるものです。プロジェクトのプロセス改善は、その場限りで終わってしまいますが、組織のプロセス改善は、組織の底上げにより持続的に効果を得ることができます。プロジェクトのプロセス改善は、プロジェクトを成功させること自体が業務ですから、意識しなくても実施しますが、組織のプロセス改善は意識しなければ取り組むことができません。当然のことながら、組織のプロセス改善のほうが、難易度が高いです。組織のプロセス改善をお奨めする意味を理解していただけたでしょうか。