DX化が議論されるようになって久しいです。近年、DX化は新たなステージへ変わってきた感があり、単なる業務の効率化から、ビジネスモデルの変革を伴う新サービスの創出へ焦点が移ってきました。DX化にはソフトウェアが欠かせません。ハードウェアに強い日本の製造業の中には、ソフトウェア化に苦しんでいる企業もあります。今回は、製造業のソフトウェア化を阻む問題について解説します。
製造業のソフトウェア化を阻む3つの問題
製造業のソフトウェア化を阻む問題には、大きく以下の3つの問題があると考えられます。
- ソフトウェア開発向けの仕組みが未整備
- ソフトウェアが必ずしも重視されていない文化
- 新しい価値を実現できるIT人材の不足
一つずつ取り上げて、問題の内容を解説していきます。
1.ソフトウェア開発向けの仕組みが未整備
ハードウェアに強い製造業は、ハードウェアに合わせた開発の仕組みを持っています。そうした企業が、製品の高度化を図る過程でソフトウェアを利用するようになり、ソフトウェアを組み込んだ組込製品を提供するようになります。最初のうちは、ソフトウェアの機能や規模は小さいのですが、それがいつの間にか膨れ上がり、他社と差別化する機能をソフトウェアが担うようになった組込製品は少なくありません。
ソフトウェアの規模が大きくなると、ソフトウェア向けの開発の仕組みを作り、ソフトウェアの開発状況や出来具合を確認できるよう基準を作ってチェックする必要があります。しかし、そこまで手が回らず、ハードウェアの基準をソフトウェアに読み替えて済ませてしまうのです。ハードウェアの基準はソフトウェア開発の特性を踏まえていないので、的確な判断は難しくなります。この場合に発生する問題は、開発するソフトウェアの品質や納期に問題が発生し、出荷に支障が出るというものです。
こうした組織では、製品毎に分かれた開発体制が多く、個々のチームのソフトウェア技術者は数人というケースが少なくありません。その結果、ソフトウェア技術者は忙しすぎて、ソフトウェア開発の改善をする暇がないという事態になります。開発環境の見直しにも手が回らず、手動中心の開発環境のままになってしまいます。
2.ソフトウェアが必ずしも重視されていない文化
ハードウェアに強い製造業の場合、コア技術と思っていないソフトウェア開発は外注することが多いです。ソフトウェア開発の特性を理解しないまま、外注へ丸投げしてしまうと、思うように開発は進みません。
開発の最終段階では、ハードウェアへの反映が難しい最後の修正が、ソフトウェアへ回ってきて、さらに事態は悪化します。ソフトウェアは、変更そのものは容易なのですが、変更による影響を正しく見極めることが難しいのです。加えてソフトウェア構造の作りが悪いと、影響の見極めは非常に難しくなります。その結果、思わぬところでバグが発生してしまうのです。
ソフトウェア開発の特性を理解していない組織では、これらの問題は単にソフトウェア開発に原因があることになります。
3.新しい価値を実現できるIT人材の不足
最後の問題は、製造業に限ったものではありません。現在はDX化への対応のために、どの企業もIT技術者の採用に注力しています。したがって、ソフトウェア化のために製造業がIT技術者を採用しようとしても、売り手市場のため、思うように採用が進まない状態にあります。
また、先端技術者ほど新ビジネスを追求する組織を好みますので、組織を変えるために採用を強化したい経営陣と、クリエイティブな仕事でなければ転職しない技術者の間で、鶏と卵のような関係になりかねません。一方、現場技術者は、現在の業務を担当できているため、スキルアップの必要性を感じる機会が少ないと言われています。したがって、現場技術者の効果的なリスキリングのためには、事業環境を変えることが必要と考えられます。
最後に
今回は、製造業のソフトウェア化を阻む問題について解説しました。どうすればいいのかについては、またの機会をお楽しみに。